大判例

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前橋地方裁判所高崎支部 事件番号不詳 判決

主文

被告人を懲役弍年に処する。

普通地方公共団体吉井町(群馬県多野郡)より金八万六千五百円を追懲する

特別地方公共団体吉井町外二ケ村隔離病舎組合より金四万九千五百円を追懲する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

罪となるべき事実

起訴状記載の公訴事実と同様(但し冒頭記載中司法警察員とあるを司法警察官又は司法警察員と訂正)であるから之を引用する。

証拠の標目(省略)

法令の適用

法律に照すと本件被告人の各所為はいずれも刑法第百九十七条の三第一項第百九十七条の二前段に該当するものであつて同法第四十五条前段の併合罪をなしているから、同法第四十七条第十条を適用し同法第十四条の制限内で犯情の最も重い第二の加重収賄罪に法定の加重をした刑期の範囲内(懲役一年以上二十年以下)で処断すべきものである。

そこで量刑を決定すべき情状について検討するに、本件は判示事実及び証拠に明かな如く現職の自治体警察署長が町長、公安委員等と結託して司法権を聾断し、その地位を悪用して、所属公共団体に対する寄附を代償として犯罪を常習的に闇から闇へ葬り去つたものであつて、世上公務員の涜職事件はその数必ずしも少しとしないが、本件の如く最も厳正であるべき司法事務に関して一地方の中心的公務員が相寄つて半公然と且継続的に収賄行為を敢えてした事例は稀有である。本件が一度検挙発覚するや「私設裁判所事件」として新聞紙上に喧伝されるに至つたことも亦決して偶然ではない。其の一面に於て警察の信用を堕し、他面に於て裁判の権威を傷け、更にひいては国民の道義心を毒するに及んだ悪影響は到底之を軽々に看過するを許さないであらう。

もとより当裁判所は被告人の本件各所為が直接には自己の利益追求に出でたものでなく、賄賂はすべて公共団体への寄附金として受入れられたものである点並に其の所為が被告人の発意によるものでなく、被告人にとつて上司ともいうべき地位に在る町長公安委員等の懇請又は強要によつて為されたものである点は被告人に有利な事情として評価することに吝なものではない。或意味では被告人は同情すべき立場に在つたとも云えよう。併し乍ら加重収賄罪の如き公の利益を侵害する犯罪の裁判に於ては、此の様な主観的事情は其れを参酌するについても自ら一定の限度が存する。如何に同情すべき個人的事情があつたとしても、侵された公の利益の重大さに眼を蔽うことは出来ないであらう。のみならず、本件寄附金の使途について見ても、その少からざる部分が町長その他の職員の年末特別手当とか、町役場並に警察関係の接待費、集会費等所謂宴会費的支出に費されているのであつて、その公正さに若干疑いの余地があり、又如何に町長、公安委員等から懇請され強要されたとしても苟も警察署長の職に在る被告人が事の善悪軽重を忘れたものとは考えられないのであつて、被告人に之を拒絶するの勇気を期待することは決して難きを求むるものではあるまい。

尚、言う迄もないことであるが、当裁判所は本件の責任が独り被告人にのみ存すると主張するものではない。本件に関与した町長公安委員その他の者も自ら負うべき責任はあるであらう。

併し乍ら、其等の者の責任が如何に追求され、如何に決定されるかとゆうことは、被告人の罪責とは別個の問題である。

以上の考察を基本とするときは、その他万般の情状を考慮するも、前掲刑期範囲内で被告人に科すべき刑は、検察官主張の最低刑懲役一年を以てしては軽きに失するものと云うべく、況んや弁護人主張の執行猶予の点は到底採用し得ないこと明かであつて、当裁判所は懲役二年の実刑を以て相当と認める。

尚本件各加重収賄に於て供与された賄賂はいずれも普通地方公共団体である吉井町及び特別地方公共団体である吉井町外二ケ村隔離病舎組合の代表者である吉井町長松井金蔵がその情を知つて寄附金として受入れたものであり、且既に費消し又は銀行預金として没収し得ざる状態にあるから、刑法第百九十七条の四によつて右各公共団体からそれぞれその収受した賄賂相当の価額を追徴することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項を適用して被告人の負担とすべきものとする。

(昭和二六年三月一五日前橋地方裁判所高崎支部)

起訴状記載の公訴事実

被告人梶山彦一は昭和二十三年二月九日より昭和二十五年八月十日迄の間群馬県多野郡吉井町警察署長として同署に勤務し司法警察員として犯罪の検挙、捜査及検挙した被疑事件を検察官に送致する職務等に従事していたものであるが、

第一、昭和二十三年六月下旬頃前記吉井町警察署に於て多野郡吉井町大字長根六百二十三番地安藤房十郎、同町大字長根千六百六十二番地馬場悦也、同町大字吉井四十八番地荻原唯一郎、同町大字吉井甲の六百四十三番地堀内貫夫より同町大字長根千七百十九番地栗本亥重外七名に対する玄米、大麦、小麦に関する物価統制令違反及食糧管理法違反被疑事件に付き吉井町に寄附金をなして寛大な取計いをなして呉れる様請託を受けた上同月三十日頃吉井町役場に於て右安藤房十郎を介し栗本亥重外七名に対する前記被疑事件につき寛大な取扱いをなして呉れ度しとの趣旨の下に栗本亥重外七名より同人等の醵出した合計金四万一千五百円を寄附金として吉井町に供与せしめ以て前記被告人の職務に関し収賄をなし因て栗本亥重外七名に対する前記被疑事件を検察官に送致の手続をなさず

第二、同年七月上旬頃前記吉井町警察署に於て多野郡多胡村大字神保九十八番地の一渡部、石橋、同郡吉井町大字吉井五十三番地細谷仙右衛門及前記堀内貫夫、萩原唯一郎より同郡吉井町大字吉井二百八十番地堀口泉外九名に対する大麦、小麦関する物価統制令違反及食糧管理法違反被疑事件に付き吉井町及同町外二ケ村隔離病舎組合に夫々寄附金をなして寛大な取計いをなして呉れる様請託を受けた上同月十五日頃吉井町役場に於て右渡部石橋を介し堀口泉外九名に対する前記被疑事件に付き寛大な取計いをなして呉れ度しとの趣旨の下に堀口泉外九名より同人等の醵出した合計金八万三千五百円(内三万五千円を吉井町に寄附、残金四万八千五百円を吉井町外二ケ村隔離病舎組合に寄附)を寄附金として吉井町及同町外二ケ村隔離病舎組合に供与せしめて以て前記被告人の職務に関し収賄をなし因て堀口泉外九名に対する前記被疑事件を検察官に送致の手続をなさず

第三、同年七月十八日頃前記吉井町警察署に於て多野郡吉井町大字吉井六百八十八番地の三横田子之吉より同町大字矢田五百六十七番地小林幸三郎外四名に対する小麦、小麦粉に関する物価統制令違反及食糧管理法違反被疑事件に付き吉井町外二ケ村隔離病舎組合に寄附金をなして寛大な取計ひをなして呉れる様請託を受けた上同月二十日頃吉井町役場に於て右横田子之吉を介し小林幸三郎外四名に対する前記被疑事件に付き寛大な取計いをなして呉れ度しとの趣旨の下に小林幸三郎外四名より同人等の醵出した合計金千円を寄附金として吉井町外二ケ村隔離病舎組合に供与せしめ以て前記被告人の職務に関し収賄をなし因て小林幸三郎外四名に対する前記被疑事件を検察官に送致の手続をなさず

第四、同年九月下旬頃前記吉井町警察署に於て多野郡吉井町大字吉井三百九十七番地河原栄太郎より同町大字塩川七十一番地吉井奥太郎外一名に対する小麦に関する物価統制令違反及食糧管理法違反被疑事件につき吉井町に寄附金をなして寛大な取計いをなして呉れる様請託を受けた上同月二十五日頃吉井町役場に於て右河原栄太郎を介し吉井奥太郎外一名に対する前記被疑事件につき寛大な取計いをなして呉れ度しとの趣旨の下に吉井奥太郎外一名より同人等の醵出した合計金三千円を寄附金として吉井町に供与せしめ以て前記被告人の職務に関し収賄をなし因て吉井奥太郎外一名に対する前記被告事件を検察官に送致の手続をなさず

第五、同年十月初旬前記吉井町警察署に於て多野郡吉井町大字池千四百四十番地倉田小太郎より同町大字池千四百八十六番地土屋仙司外二名に対する小麦に関する物価統制令違反及食糧管理法違反被疑事件に付き吉井町に寄附金をなして寛大な取計いをなして呉れる様請託を受けた上同日六日頃吉井町役場に於て右倉田小太郎を介し土屋仙司外二名に対する前記被疑事件に付き寛大な取計いをなして呉れ度しとの趣旨の下に土屋仙司外二名より同人等の醵出した合計金七千円を寄附金として吉井町に供与せしめ以て前記被告人の職務に関し収賄をなし因て土屋仙司外二名に対する前記被疑事件を検察官に送致の手続をなさなかつたものである。

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